2024.1.20「第11回学生書評コンテスト」受賞者が決定!

崇城大学図書館では、学生の読解力や文章力の質的向上を目的とし、授業と連携して「学生書評コンテスト」を実施しています。

今回、応募者数182名(185篇)となり、学生書評コンテスト実行委員会において、慎重且つ厳正なる審査を行った結果、1次審査で30名の作品がノミネートされ、2次審査で12名、最終審査において9名の受賞が決定しました。下記のとおり、表彰式を開催いたします。

【学長賞】

  • 森田さん 情報学科4年『言葉の海をさまよう』鈴木 絢音(著)

【優秀賞】

  • 川畑さん 薬学科2年『いまこそガーシュウィン』中山七里(著)
  • 岡田さん デザイン学科2年『線は、僕を描く』砥上裕將(著)
  • 松田さん 美術学科1年『星の王子さま』サン=テグジュベリ(著)

【佳作】

  • 山アさん 建築学科2年『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ(著)
  • 大島さん 生物生命学科2年『成瀬は天下を取りに行く』宮島未奈(著)
  • 瀬口さん 薬学科1年『変身 改版』フランツ・カフカ(著)/高橋義孝(訳) 
  • 原さん  薬学科2年『魔女と過ごした七日間』東野圭吾(著)
  • 新城さん 薬学科2年『ルビンの壺が割れた』宿野かほる(著)

表彰式について

 開催日時 令和6年1月24日(水)12:25〜

 開催場所 図書館6階 多目的ホール

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第11回 崇城大学 学生書評コンテスト 講評

図書館長 芸術学部 教授 関根 浩子

 本年は173編の応募がありました。日本語授業のカリキュラムが再編された4年前には応募数が25 編でしたが、翌年には57編、 次の年には19名の受賞者の皆さん、この度は誠におめでとうございます。本に親しみ、自身が読んだ本の書評を書くことで読解力や文章力、要約力の向上を図ることを目的に開始された本学の書評コンテストも、早いもので11年目を迎えました。図書館を思う存分活用して欲しいという願いも込めたこの取り組みが、学生の皆さんの国語力の底上げに些かでも貢献できているようでしたら、図書課職員一同、これに勝る喜びはありません。

 さて、今年度の書評コンテストでは、185篇(182名)の応募作品の中から、執筆者の情報を伏せた第1次から第3次に及ぶ3段階の厳正な審査を経て、学長賞1篇、優秀賞3篇、佳作5篇の計9篇の書評が選ばれました。受賞した9篇の書評を1篇ずつ詳細に紹介することはできませんので、9篇の全体的傾向や特徴について述べた後、学長賞受賞作品について紹介して講評とさせて頂きます。

 今年度の受賞作品9編が対象とした本は、それぞれ20世初め、半ばに書かれたカフカの『変身』やサン・デグジュベリの『星の王子さま』を除けば、いずれも今世紀の10年代以降、多くは20年代という近年に書かれたもので、現代社会が抱える問題や傾向、具体的にはデジタル化社会、AI、戦争、音楽、ジェンダー、コロナ禍の閉塞感、孤独といったテーマに果敢に挑んだ作品であったと総括できます。また、受賞には至らなかったものを含め、メディアにしばしば登場して年齢的にも近い、いわゆるアイドルが書いた本を選んだ書評が一定数あったことも、今年度の書評の傾向の一つに挙げられます。受賞者の選書理由がどこ、あるいは何にあったのか、例えば自身の問題意識や自身が抱えている問題とリンクしたからなのか、あるいは単に興味・関心を持ったからなのかは、一人一人本人に訊ねてみないと分かりませんが、受賞者の皆さんが現代社会の諸問題や諸傾向を敏感に感じ取ってくれていることは疑いないと思います。

 続いて、学長賞に輝いた情報学部4年の森田敦也さんの書評の講評に移ります。森田さんが取り上げたのは鈴木絢音著『言葉の海をさまよう』という本でした。著者の鈴木さんはアイドルグループ(乃木坂46)の元メンバーで、辞書に対して強い愛情を持っている女優であり、また、文筆家です。この本は、彼女と、辞書作りに携わるさまざまな職種の人々(編纂者や編集者、校正者、印刷会社、デザイナーなど)との対談集(「小説幻冬」で連載)を1冊にまとめたもので、森田さんはそれを読んで「書評」を書き、応募してくれました。今や電子辞書やインターネットの普及で、森田さんが書評の中で敢えて鍵カッコをつけて「紙辞書」と書かなければならないほど、三次元空間に実在する紙製の辞書はその存在意義・価値を減じつつあるように思われます。しかし、この本は、旧来の紙製の辞書だけが持つ多くの利点や魅力を語ってくれているようです。そして、そうした魅力の一例として森田さんは、紙の辞書を引くという行為を挙げ、その行為は、便利になり過ぎた現代社会が忘れかけている「苦労」して知識を得る愉しみや、言葉の奥深さを味わう「マニアック」な楽しみを享受することにつながる、と述べています。

 森田さんの書評は、構成・展開の巧みさや要約の的確さ、文章の正確さなどはもちろんのこと、最後の段落の読者への投げかけの文章が秀逸で、審査者全員一致で最高賞に決まりました。さらに同書評が学長賞に選ばれたのには、昭和生まれの教員世代にとっては「辞書=紙の辞書」、「本=紙の本」であったものが、今や旧時代の遺物のように扱われ始めている現代社会に一抹の不安や寂しさ、危機感を感じていたということが多少ともあったのではないかと思っています。少なくとも審査者の一人である私はそうでした。そのような中で、辞書だけでなく、「言葉の海」と言える文芸全般におそらくは魅了されている森田さんの力のある書評が、審査員の先生方の心を掴んだのに違いありません。審査完了後、書評の執筆者が誰であったのかが図書課職員から初めて明かされ、また、森田さんが1年生であった2020年度にも書評コンテストで最高賞を受賞していたこと、さらに今年度のコンテストにもう1点の書評をエントリーしており、それも第3次審査まで残っていたことが補足説明されると、審査員室に忘れがたいどよめきが起こりました。

 最後に、受賞者された方々だけでなく、本学の学生の皆さん全員が、英知を磨き、心を育む豊饒な言葉や言語の海をさまよいながら、実り多い人生を送って下さるよう願って講評を終わらせて頂きます。

令和6年1月24日